静岡スタイルは、静岡クレールに新しく変わりました!

【コラム】カフェとわたし(近藤洋子)

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今回取材したのは「ひねもすcafé」の店長、近藤洋子さん。

近々放送されるNHKのテレビドラマ「ふるカフェ系 ハルさんの休日」の舞台としても使われているこちらのお店は、ノスタルジックな空気を纏いながらも決して古さを感じさせない美しさがあります。多くの人を魅了するセンスに溢れた空間はどのようにして作られたのか、近藤さんの人柄とお店の歴史からその秘密に迫ります。

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【来てくれる人に居心地のいい場所を探してもらいたい】

 

−お忙しいところすみません。今日はよろしくお願いします。

近藤:よろしくお願いします。

−ではまず、こちらのお店は何年目になりますか。

近藤:今年の11月で10年になります。

−始めたきっかけとかは。

近藤:もともとはソーシャルワーカーをしてたんですが、いつかのんびりゆったりしたカフェをやりたいなって思っていて。それを習っていた陶芸の先生と話していたら、「今やればいいじゃん」て言われたんです。最初は自営業のノウハウもお金もないのにできませんよって感じだったのだけど、せっかくだから波に乗ってしまえ!と思って始めたのがきっかけですね。

−え、それだけで作ってしまったんですか。

近藤:うん。あともう一つ言っておかなきゃいけないことがあって。当時、精神障害者の人たちを社会復帰させる施設で就職支援をしてたんです。そこで彼らをサポートをしてたんだけど、社会に出てもなかなかうまくいかないんですよ。スキルはあっても人間関係でダメになっちゃったりってことが多くて。それで、なんか違うなぁって、やりたいこととずれてきているのを感じていた時に、それなら自分でやっちゃおうと思ってカフェを始めました。

−なるほど。すると、目的はカフェだけではないのですね。

近藤:そう。精神障害者の方ってまだまだ偏見があって社会に受け入れられなかったりする。でも私は、彼らがびっくりするような行動をとったとしても「そういう人もいるな、おもしれ。」ってみんなが思えるようになってくれたらそれはすっごい豊かだなと思うんです。そういう社会もおもしろいじゃないかって。だからそういう空間を作りたかった。

−カフェをやるっていうよりも、空間を提供したいっていう気持ちの方が強いんですか。

近藤:そうそう。美味しいものを出したいっていう気持ちもありましたけど、空間の提供って気持ちの方が強くありましたね。私が自分の家以外で落ち着ける場所を探すのが好きだったから。ありませんか?ちょっと落ち着かないから図書室のあの席でサボっちゃおうかな、とか。そういうのに馴染みがあるから、ここもいろんな席を作ってお客さんに馴染んでもらいたくて。この席がいいよね、あの壁がいいよね、とか感じながら自分の場所を探してもらいたい。

−素敵ですね。ところで、出身はこちら(静岡)ですか。始めてお店にお邪魔させていただいた時、あまり静岡にない空気を感じたので気になっていまして。

近藤:えっと、その辺から話すと…もともとは沼津の人間じゃないんです。大学卒業くらいまでは千葉にいて、東京に就職してからは吉祥寺に暮らしてました。吉祥寺、昔は情緒があっていい街だったんだけど、私が出る頃には若い人に人気の街になってしまって。とっても刺激的ではあるんですけどそれに結構疲れを感じてたんです。とくに、駅から仕事を終えて帰ってくる間にお店ができちゃ潰れを繰り返すのが辛くて。

−ああ、エネルギーの浮き沈みというか…

近藤:そう!わかります?それでだんだん自分のペースと合わなくなってしまって。それで富士山の近くに住みたいと思っていたらたまたま沼津に仕事を見つけて。でも、こちら側のシュッとした富士山よりも山梨側の方が好きだったので最初は腰掛のつもりで住んだんです。

−建物はここに決めていましたか。

近藤:いや、当時はこの近くに住んでいて「おもしろい建物があるな」くらいの感じでした。ずっと空いてるっていうこと以外はよく知らなくて、改築始めてから「あ、蔵だった。」って初めて気づいた。

−ということは、下見も全然せずにこちらへ?

近藤:そう。中もよく見ないでなんとなくここに(笑)

−すごい(笑)。建物はどのくらい空いてたんですか。

近藤:15年くらいですね。

−すると、屋敷みたいな…。

近藤:うん、すごかった。改装する前はボロボロ。でも、私は縁もゆかりもない土地だし、知り合いもつてもないからどうしようもなくて。とりあえず陶芸の先生から紹介してもらった工務店に見積もりをもらったんですけど、これがまたとんでもない金額で…。で、あるカフェで困っていたら、そこのオーナーが「カフェやるんですか?ぼく、いまカフェを作りたいと思ってるんですよ」って声をかけてくれて。

−作るって、建てたいってことですか。

近藤:そう。でも、協力してくれる人には怪しいよって止められたんです。だけど私は気にしなくて「じゃあお願いします」って言ってそのまま任せました。そしたら本当に彼は作ってくれて。素人なんですけど、棚とか電気とか人件費なしの材料費だけで全部やってくれましたね。

−その方は建築関係の仕事とかされてたんですか。

近藤:ううん、ただのカフェのオーナー。器用なんだよね、彼。外壁削ったり梁外したりとかもやってくれて。階段だけは大工さんに頼みましたけど、それ以外は全部、彼。4月から初めて11月にできたから…8ヶ月でできました。だからほんとにみんなに助けられてできたなって思います。

−8ヶ月って相当早いですね。ゼロからのスタートで不安はなかったですか。

近藤:ありましたよ。いやでも、何にも考えてないのよ(笑)。ただ、やろうってだけでリサーチもしなかったし。経験者からはいろいろ言われましたけど、私は一人でこの町に来たからそういう言葉は全部耳に入らなかった。やるって決めたからシャットアウトですよね。不安になることをいちいち聞いててもしょうがないし、やりたいことはやろうと。

−かっこいい。

近藤:いやいや、そんなことないです。ただアホなだけですよ。私もサラリーマンやってたから安定した収入がある生活がいいのはわかってるんです。それでも稼ぎに波のある自営業をやろうなんて思うのはアホしかできないなって(笑)。

 

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【良いと思えば良いでしょう、良いと思える力がないと豊かじゃないでしょう】

 

−外から来た身として、沼津の街並みや人柄についてはどう思いますか。

近藤:うーん…人柄でいうと保守的な印象がありますね。だから、一人でお店に来られる人が少ないんじゃないかなって思ってました。いまでは増えて、よっしゃ!ってなってますけど(笑)。街並みについては、いわゆるシャッター商店街ですけど、私はそれもいいじゃないかって思うんです。町おこしをする人たちはもちろん素晴らしいですけど、私の意見としては、寂れていく街も一つの文化だと思うところがあって。なので、自分から何かこの街に対してしようっていう気持ちはあまりないですね。

−お話を聞いていると、見守る姿勢をとっているというか、委ねているというか。ちょっと言葉がよくないですけど、干渉しないなって思うんです。反対に、関わりを持とうと思ったり、のめりこむようなものってありますか。

近藤:いやぁ、若い頃はそれで失敗したことはたくさんありましたけど、学ぶのはやっぱり「何が豊かか」ってこと。「知らせなきゃわかんないよ」って言う人もいるけど、最終的には受取手が「それが豊かか」って決めることだと思う。だから、その人の主体性に私は重きを置いている。良いと思えば良いでしょう、良いと思える力がないと豊かじゃないでしょう、って。だから、何もしないっていうよりは、自分が楽しく生きてたり、自分がこの風景いいなって思うと、なんかわからないけど共感してくれる人がいる。その方が早いっていうか…。自分が充実してればいいんじゃないかな。自分が楽しくしてれば結果的にみんな幸せになるっていう感覚かな。

−なかなかできないと思うんです、そういうことって。特に知らせるわけでもなく人を呼べるって、みんなそうしたいけどできなくて悩んだり頭を抱えたりしてるので。

近藤:うーん、お客さんは選んでここに来てくれるわけだから、それだけで力が働いてるじゃないですか。それは私の力でもないし。ここって駅近じゃないから、来るってことは何か目的があって来てくれるわけですよ。その時点で、その人が決めて来てくれてるっていうのは、すごいことだなって。私に付いてくれるんじゃなくて、お店に付いてくれることが大事だから。

−店長というよりは職人、クリエイター気質ですよね。

近藤:あぁ、それはよく言われますね。なんでかはわからないけど。

−大体のクリエイターって作ることが好きでそれが仕事って考えてるんです。だから、それとは全く別枠の宣伝をしたがる人はあまりいなくて。でも、そうしないと生活ができないから仕方なしにPRしてる人が多いんです。だけど、近藤さんはそういうことをしてるわけではないのにお客さんが来てくれるっていうみんなの理想が実現できてる。それができてる人ってなかなか出会えないですよ。

近藤:もちろん稼がなきゃって意識はあるんだけど、それよりも先に自分が楽しまなきゃしょうがない、面白くないって思うんです。だから、この建物を私が作ったら、あとは勝手にこの子がお客さんと遊んでくれるっていうのを見てるだけでいい。それが面白いなって思うし。

−生き物みたいに捉えているんですね。

近藤:そう。ひねもすさんが来てくれる人と戯れているって感じ。それはなんだか劇場みたいだなっていう風にも見えるし面白いよ。もう、あれなんですよ。考えてもしょうがないし、なんとかなるでしょって。

−そのくらい大きく構えているから上手くいっているのかもしれませんね。

近藤:うん、そうかもしれない。私がこれだけ好きで楽しくやってるんだから見てる人もきっと楽しいだろうなって。だから、お客さんも来るときは来るでしょって(笑)。

 

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自分が選ぶ行動に対して、尊敬している場所とか好きな場所に対する愛っていうかね、そういうのは必要だなって思う

 

−お店は来る人にとって居場所となって欲しいですか、それとも帰る場所であって欲しいですか?

近藤:いやー、それは私が居場所を探すのが好きだったからっていうのはあったけど、みんな好き勝手使ってるから自由でいいんじゃないの?って最近は思ってる。いろんな人いますよ。高校生が勉強しに来たり、通りすがりで一杯だけお酒飲みに来る人がいたり。いろいろでいいんじゃないかな(笑)。カフェってつけちゃったからそうなってるだけで、実際はそんな感じもしないし。

−共有スペース的なところもありますね。

近藤:それもありますね。とは言っても、自分で選んで来てるっていう意識は持って来てもらいたいんですよ。本人たちの主体性はあって欲しい。

−具体的に言うと。

近藤:例えば、私がバーに行くときは少し綺麗にしていくんです。なぜなら、その場に失礼のないようにしようと思うから。その場に対する尊敬とか、大事な場所だからっていう意識を持っていたい。で、そこで使う時間は私にとって「豊かな時間」だから、お金を払いましょうって。自分が選ぶ行動に対して、尊敬している場所とか好きな場所に対する愛っていうかね、そういうのは必要だなって思うから。なので、あまり主体性のない人とか失礼な人は帰したりしますよ(笑)。

−帰しちゃうんですか?

近藤:帰しますよ。そりゃあだってプライド持って来てよって思うから。帰すっていうか早めにお帰りいただくっていう感じだけど。私がお金欲しいっていうよりは、あなたたちが時間を無駄に使ってるよねっていう意味で。でも、ケースバイケースですよ。高校生がお金ないのに来てくれて勉強しに何時間もいてくれるのは豊かだなって思うからそれは言わない。何を豊かにするかは私の中にも尺度がある。だから、高校生と失礼な大人では対応は違ってくる。

−なるほど。

近藤:なんでもいいってわけじゃないんですよ。そうするとお店がカオス状態になって壊れちゃうから。なので、その辺は厳しいですね。

−ようやく干渉する部分が見えてきたなって思うんですが…。

近藤:(笑)。でも、そういうこと言うなら使い方がちょっと違ったりすると厳しく言うよ。たとえば、子供を置いて下に降りてきちゃう人とかには注意する。それは大人であれ子供であれ目線は同じで。そういった意味での干渉は結構ありますよ。こっちに委ねたり、許可を得たりする前に、まずは自分で判断してっていう気持ちを持って欲しいから。その辺は未だに戦ってるとこでもあるんですけど。

−難しいですね。

近藤:本当に難しい。だから、その辺に気をつけながら店を守るための努力はしてる。でもこういう努力って実はしたくない。普通だろって思うから(笑)。

−確かに(笑)。できることならしたくないですよね。そのくらい自分で判断してよって思います。

近藤:そう!できることならしたくないんだけど、なかなかそうはいかないかな。

−最後に。沼津に来てよかったって思いますか。

近藤:うん、富士山もそうだけど海の近くに住みたかったから。最初は何もないって思ったりもしたけど、本当に自然がいっぱいで素敵な土地だなって思うようになった。空間が広いこととか波の音とか、山とか川とか水とか…それだけでいいわ、くらいに思う。

−豊かですね。

近藤:いや、ほんとに豊かですよ。中都市でこんなに自然が残ってるってすごいなって。暖かいし住みやすいしとってもいい町ですよ。もっと胸張っていいと思う。いいものがすごいいっぱいあるもの。文化も歴史もあるし、かっこいい。鄙びた海とか見てると「あの海の何がいいの?」って言われたりするけど、純粋にいいものだからもっとみんな見てくれたら良いのになって思いますね。

 

【店舗情報】

ひねもすcafé
場所:静岡県沼津市魚町20番地
営業時間:11:30〜20:30 *平日17:00以降はご予約ください。
定休日:月曜日
問:055-951-7812
詳細:http://www.geocities.jp/hinemoscafe/

*NHKドラマ
「ふるカフェ系 ハルさんの休日」-静岡・沼津編-
日時:4月27日(水) 夜11:00〜11:30
詳細:http://www4.nhk.or.jp/furucafe/